君のいる世界
現在 礼治
月に一度、寄る店がある。ネットで注文するなら手軽に出来て出向くことなんてないのに、わざわざ店まで向かうのは自分で見て決めたいからだ。
道に面したドアを開けると、花の香りが溢れてくる。いつの季節にも変わらず花で溢れたそこには、長年通っているため顔馴染みになっている。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。今月もよろしくね」
「今月もいいお花がいっぱいありますよ」
長い髪をひとつに結っていて、白シャツに黒のカフェエプロンなのに華やかなのは、彼女自体が華やかな雰囲気があるからかもれない。
近頃、結婚を決めたという彼女からは幸せな雰囲気しか伝わってこない。好きな男と添い遂げられるのなら、なによりだ。大手の外食チェーン店を経営している彼女の父親とは、この店を出すことで喧嘩して以来暫く疎遠だったのが、やっと仲直りしたのだ。
「いつも沢山ありすぎて迷うけど、お勧めなんかある? 」
「そうですね、どれもお勧めですけれど青いお花がお好きな方でしたよね? アネモネなんてどうですか? 」
彼女の視線を辿ると赤や紫などのはっきりした花色の花の群が目についた。移動してきた彼女が自ら背の高いバケツから花をより分けて、花束のように形づくってくれる。よく水彩画で描かれているような、または北欧のファブリックにあるような華やいだ雰囲気が気に入ってアネモネで花束を作ってもらうことにした。