君のいる世界

 熊を捕まえようと仕事先のウエディング施設まで連絡をいれたら、まわりに聞かれる可能性があった。いつもなら、そんなへましたりしないと思う。

 ただ今日、病院でのカンファレンスで詳しい手術の内容説明と日程が組まれたので、早急に書類が必要になったのだ。

 慌てていたし、参っていたから熊に対する配慮が欠けていたんだろう。それでも熊の職場であるそこで自分の状態を打ち明けるまではいかなくて『壺かわない? 』なんて軽口も出た。

 この熊は、まったく別の心配をして俺に会いに来たのだ。


「はーーー止めてくれよ、こういうの。心臓に悪いじゃないか。もうどんな宗教に騙されたのか心配で……」


 つるりと顔を撫でる熊には汗が浮いている。あんだけ飯食えば汗もかくよな、という突っ込みを胸のうちでする。俺のこと心配ならさ、飯も喉を通らないだろうが。飯食い過ぎ。


「心肺機能が鍛えられていいだろ」

 にやりと笑いがでる。

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