君のいる世界

「そんなこと誰にも約束できないからね。例えば、術後の五年生存率とかでしかはかれない。それはステージによっても違うし、開けて診なければわからないこともあるからね」


 例えば、転移だとか。

 食道という器官には大きな血管やリンパ管が張り巡らされているため、リンパ液や血液によってガン細胞が体内に広がりやすいのだ。

 血管で増えたガン細胞が死んだものが血管を詰まらせ血栓を作る。それが詰まるのが脳なら脳血栓だし、大動脈だったなら大動脈瘤になる。

 さらに食道の近接している臓器に肺や心臓がある。胸の中で食道のある位置というのは、肺の後ろで心臓の上だ。心臓を取り巻く大動脈もある。それだけの重要臓器に囲まれているため、手術も高度な技術を必要とするので、手術時間は7時間を超える。

 開胸手術では、胸の骨を切断して片肺を一時的に取り出し、ガン細胞を切除する。短くなった食道を補うのは胃なのだ。


 生きることである食に関する臓器の食道と胃に負担がかかるため、病後の思わしくないガンなのだ。



「俺は、確かな未来を約束なんて出来ないんだ」

「だから遺書なのか」
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