君のいる世界
「じゃあさ、また連絡するわ」
書類だけもらってさっさと帰ろうとする俺に、熊が顔をしかめる。
「お前、あんまり食べてないだろう? 」
「ん~あんまり食べれなくなるのよ、この病気は」
喉に違和感があるため、飲みこむのが辛くなるのだ。
「………いいから、少しだけでも食べてくれ。体力つけないと、手術だって出来ないだろ」
そう言いながら押しやってきた皿は、さっきの刺身ではなくて揚げ出し豆腐だった。こいつなりに気を回してくれているのがわかって、顔が緩む。
「その割にヘルシーだな」
「文句言うなよ。僕だって心配してるんだよ」
豆腐にかかったあんごと口に入れれば、噛まなくてもホロリと崩れる。何度か噛んで飲み込むまでを熊がじっと見ている。
こんなにも心配してくれる奴がいるなんて、ありがたい。
ゆっくり一皿の揚げ出し豆腐を食べ終わるまで熊は待っていた。