君のいる世界

 その全てが嘘みたいに実感が湧かなくて、それでももうここには、おじいちゃんがいないことはわかる。もうおじいちゃんの魂はこの体を離れてしまったんだ。


「これからお体を清めますから、ご遺族の方は休憩所まで移動をお願いします」


 病室から休憩所に来ると叔父さんは、あちこちに電話をかけて手配を頼み、おかーさんはぐったりと椅子に座っていた。まだ明るくなっていた外の光だけしかなくて、どこか現実味がなくて紙みたいに顔が白かった。

 そんなおかーさんに、なんて声をかけたらいいんだろう。まだ早朝の病室はひっそりとして寒くて、何もすることがなくてただ座っていた。


 遺体を清めてからは、霊安室に遺体が移動される。明るくなった外は生きている人の世界で、命を失った者は隠れなくてはいけない。


 見ようとしていないからじゃない。


 死とは隠されるものだから。


 ストレッチャーに移されたおじいちゃんを看護士さんが連れていく。あたし達はただその後をついて行く。

 
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