君のいる世界

 普段使われることのなかったドアを開けて別の建物まで移り、くねくねと廊下を進んでエレベーターで下がる。

 またここに来ようとしても、きっとわからないくらい道が入り組んでいて、案内がなかったら迷子になってしまいそうだった。それは魂を置いてくるのに、お墓から帰るのに別の道を行くみたいだった。



 きっともう二度と来ることなんてない。


 それがわかっていても、虚しさが募る。誰にも見られず、誰にも会うことなく霊安室まで到着した。

 ステンドグラスの明かりがぼんやり照らすそこであたし達は、おじいちゃんをお迎えに来る葬儀屋さんを待つことになっていた。

 病院は死と隣り合わせなのに、死の匂いをさせていないのは、こういった所にその一部を隠してしまうからだ。

 治療しながらも死の淵で頑張る人に、淵から落ちてしまった人を見せることはない。ある時ふと気がついて、いなくなったのは退院かと思うくらいだ。

 

 コツコツと控えめな音がして顔を上げると、おじいちゃんの主治医の先生と担当だった看護士さんがそこにいた。
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