君のいる世界

 窓のないこの霊安室は息苦しくて、胸が苦しい。下を向くとこらえきれない涙が、ぼたぼたこぼれた。

 
 お医者さまが悪いわけじゃない。


 でも、誰かのせいにすれば楽だから……


 憎い、悔しい、辛い、悲しい………



「あたしっ……おじい、ちゃんとっ……玄関から……帰りたかった」

 
 普通に、歩いて。退院のお祝いに、ご飯食べに行こうかなんて話しながら。


「………すみません、お力になれず……すみません」


 涙の幕の向こうでは、お医者さまは泣くのをこらえて唇を噛み締めていた。二人来てくれた看護士さんは、おじいちゃんのために泣いてくれていた。

 その涙を見て、悲しんでくれている姿を見て救われている自分がいた。

 おじいちゃんがいなくなってしまったのを、悲しんでくれている人がこんなに居てくれていることに安心した。

 誰にも知られずにここまで来て、誰も悲しんでくれなかったら、この病院でおじいちゃんが過ごした日々は無かったのと同じだ。
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