君のいる世界

「山崎礼治の妻です。私のことは知っているのかしら? 」

「聞いています。礼治さんから直接ではないですけれど」


 トン、と綺麗にネイルの塗られた爪が抱えていたクラッチバックを叩く。憧れていた姿よりも年を取っているけれど、年を重ねて成熟した女らしさがあって、変わらない美しさがあった。

 美しく年を重ねるということは、こういうことなのかもしれない。長く伸ばされた髪は手入れがよくされていて、艶々だったし、シミやしわのない陶器のような肌だった。

 こんなにも美しい人が、礼治さんの奥さんなんだ………





 そりゃ好きになるよね……



 つい自分の履いてきたパンプスを見てしまう。ピンク色でリボンのついたそれは、仕事用に買ったものの、酷く子供っぽく見えた。

 礼治さんの奥さんはキラキラしたジミーチュウのパンプスを履いていた。素敵な大人の女性だ。憧れていても、似合うには女性としての成熟が必要な靴だった。

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