君のいる世界

 たとえバカみたいだったとしても、入院している礼治さんには必要なことかもしれない。寂しくなったら、話し相手になってあげられるかもしれない。

 そばにいたら、礼治さんが何をしてもらいたいのかわかるかもしれない。

 だから、そばにいたい。




 手術室で、お医者さまに全てを委ねている礼治さんが今どんなことを思っているのかはわからないけれど。

 そばにいたいなんて、ただあたしがそう望んでいるだけのことでしかない。



 それはこの美しい人も同じ気持ちを持っているから、ここに来ているのだろうし。

 あたしばっかり礼治さんを欲しがっている。奥さんは、ちっとも焦っていなくて、あたしだけ必死に礼治さんを好きでいる。


 こらえきれない涙が、一粒右の頬を滑り落ちた。



「PTSD(心的外傷後ストレス障害)って知ってる? 」

 
 ごしごしと涙を拭って彼女を見たら、微笑んでいたけれど壮絶な顔をしていた。酷薄な笑みというのだろうか意地の悪い、醜い顔に見えた。

 PTSDは確か災害の後や、犯罪被害者がなると聞いたことがある。
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