君のいる世界
とんとクラッチバックを抱えた側のお腹を叩く。
「刺されたのよ、脇腹を包丁で。『あんたさえいなければ、礼治さんはあたしを見てくれる』って。酷い妄想だわ。おかけであたしは二週間入院して、退院する頃にはPTSDになってたって訳。一緒にいたって、礼治は私のこと守ってなんてくれなかったわ。包丁を突き立てられた私のことよりも、ストーカーのほうばっかりかまって、話して………」
たとえほんの少しでも好意を寄せてくれた人のことを、礼治さんが邪険に扱えるとは思えなかった。
「……奥様は、礼治さんにストーカーのこと話されていたんですか? 」
「言わないわ、そんなこと。嫌がらせだけなら我慢できたし、まさか殺されそうになるなんて考えていなかったもの」
「きっとなんでこんな事をしたのか知りたかったはずです。刺された包丁を無理に抜いてしまうと、却って出血が酷くなってしまいますからそれは仕方ありません。そこで礼治さんがストーカーと話したことも、奥様から注意をそらすためじゃないですか」
「じゃあ……見捨てた訳じゃないと言うの? 」
「おそらくは」