君のいる世界
「もう辛いの。終わりにしたくても、ずっと出来なくて……私は礼治に会うことが辛いの。それでも、礼治の親友が今日だけはどうしても礼治に会って欲しいと言われたから来たの。病室であんな告白を聞くなんて知らなかったから……礼治は一人ではなかったのよね? 山並さんや、アシスタントの子やあなたに囲まれて幸せだったのかしら。きちんと自分が幸せだと感じることが出来たのかしら」
「アルバムの撮影で礼治さんは笑ってくれました。いい写真をたくさん撮ってくれて」
心の痛みで麻痺してしまったこの人は、世界が美しいと感じることが出来るんだろうか。痛みや苦しみで染まった世界にまだ住んでいるんだろうか。
「お医者さまとたくさんの話をして、同じ痛みを持つ人とグループで話したりしてたのよ。少しづつ私も治すことが出来るように。この世界には礼治だけじゃないの。辛かったら止めてもいいの」
そう決心した彼女の顔は晴れ晴れとしていて、また美しく見えた。
「ずっと悩んでいた。私が礼治の看病をしなかったら、礼治は本当にに死んでしまうだろうから。あの人、遺書を書いているのよ。食道ガンは大病だから完治は難しいわ……でもあなたは礼治のそばに居てくれるのね? 」