君のいる世界

「ストーカー女に妻を刺されました。住所は………です。すぐに来てください。あと至急、救急車を回して下さい」


 通話を切ると、呆然とした女が俺を見た。


「なんで……こんな女よりあたしのほうが、ずっと優しくしてあげるのに。礼治さんが仕事をしている時だって、遊び回ってて家のことなんて、ちっともしてないのに!!」

「知ってるよ」


 淋しい思いをさせていることなんて、知ってる。妻のインスタに上げられている写真が、家のご飯からレストランのディナーになったとしても、好きな女に贅沢させてやれない男なんて価値がないと歯を食いしばった。

 写真集一冊出しただけで話題になったものの、世間では駆け出しのカメラマンが認められるまではガムシャラに仕事をするしかなかった。

 その結果、ストーカーに付け入る隙を与えてしまった。



 一番悪いのは、俺だ。


 誰ひとり守れず、幸せに出来ない。煙草を出して火をつけると、煙が目にしみる。
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