君のいる世界

 やってきた警察にストーカー女が取り押さえられて、やっと彼女のもとにやってこれた。腹から包丁が刺さった姿は異様だが、腹で良かった。首や顔を狙われたなら、冷静にストーカーなんて相手に出来なかった。

 これでもうストーカーに付きまとわれることがなくなって安全になったはずなのに、気が晴れない。

 包丁は腹膜で止まり、内臓を傷つけるほど深く達していない。だけどそれで良かったのか?

 なりふり構わず彼女を助けて救急車を呼んだほうが? それだとストーカーを捕まえることなど出来なかった。

 現行犯で捕まえない限り、また彼女が狙われる。それだけは、どうしても避けたかった。自分のストーカーが逆恨みして妻を傷つけるなんて、そんなこと知らなかった。



「…………ごめんね。知らなかったんだよ」


 血を流して痛みを堪える彼女に届いたかはわからない。それでも無意識に首を振ったので、少し救われた。救急車がやってくるまでのその数分が酷く遅く感じられた。
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