君のいる世界









 またふわふわと意識がさ迷う。

 ああ、これは10年前だ。出版を記念して作品の展示とサイン会をして回った時だ。招待してくれたデパートのオーナーを案内して回って、やっとひと息ついた時、ひとりの女の子が目にとまった。

 一枚の写真をじいっと見つめる瞳には憧れがあって、頬をばら色に染めている姿が可愛いらしかった。

「写真好きなの? 」

「ううん。あんまりよくわからないんだけど、この写真はスッゴく好き」


 無邪気ににかっと笑った顔も可愛いかった。


「そう。どこが好きなの? 」

「あのね、この女の人、スゴくキレイでしょう? だからね、好きって言ってるの」

「写真が? 」

「そう。大好きなんだって」

「そうかな。それを撮ったの俺なんだ」

「この人のこと好き? 」

「うん。そうだね好きだよ」


 なんでこんな所で、こんな恥ずかしい話をしているんだろう。片手で顔をおおうようにして答える。
< 177 / 181 >

この作品をシェア

pagetop