君のいる世界
またふわふわと意識がさ迷う。
ああ、これは10年前だ。出版を記念して作品の展示とサイン会をして回った時だ。招待してくれたデパートのオーナーを案内して回って、やっとひと息ついた時、ひとりの女の子が目にとまった。
一枚の写真をじいっと見つめる瞳には憧れがあって、頬をばら色に染めている姿が可愛いらしかった。
「写真好きなの? 」
「ううん。あんまりよくわからないんだけど、この写真はスッゴく好き」
無邪気ににかっと笑った顔も可愛いかった。
「そう。どこが好きなの? 」
「あのね、この女の人、スゴくキレイでしょう? だからね、好きって言ってるの」
「写真が? 」
「そう。大好きなんだって」
「そうかな。それを撮ったの俺なんだ」
「この人のこと好き? 」
「うん。そうだね好きだよ」
なんでこんな所で、こんな恥ずかしい話をしているんだろう。片手で顔をおおうようにして答える。