君のいる世界
「どうしてモデルになりたいの? 」
「憧れている人に会いたいからです」
瞳の強さに負けないように、あたしも彼女を見つめた。
「それはモデルかしら。それともデザイナー? 」
「……いいえ。カメラマンです」
モデルを目指してから、ずっと胸に秘めていたことだ。本当はモデルはその人に会うための手段で、目的ではなかった。
こんな浮ついた目的でモデルになろうとしていたから、どのオーディションにも落ちたのかもしれない。
隠していたことを聞き出されて、不安でたまらなくなる。もぅ落選でいいから、早くここから出て行きたい。
びしよ濡れで恥ずかしくて、張り付いたシャツが冷たく感じた。なんとか顔を上げて椅子に座っていると、彼女の綺麗に塗られた唇が開かれた。
「その人に会えるといいわね」
にこりと笑った顔は華やかで、よっぽどこの人のほうがモデルに向いていると思えた。やっと退室しながら、安堵の息を吐き出した。