君のいる世界
信じられない。いい大人がこんな無計画なことするなんて。
ぽかんとしたあたしを見て、さやちゃんと呼ばれた人がしかめっ面をつくる。
「少しくらいはヒントをあげてたらこんなに戸惑わなくてすんだでしょうに……」
「ヒントならあげてたわよ。プレス用のバックステージパスを送ったもの」
「だから紙が二枚入っていたんですね」
小さいほうの紙に書かれていた時間は早くて、それは取材のためにわざわざ早くしていたそうだ。
「今回こんなに急な話になってしまったのも、ミカさんがショウのために作ってあった服を全部玲奈ちゃんのために作りなおしたのよ。ミカさんかなりダダをこねてね…玲奈ちゃん以外のために服を作らないって社長と揉めてね」
「あの、ミカさんはデザイナーさんですか? 」
はっとしたように、ミカさんとさやさんがあたしを見た。
「もしかして…ミカさん自己紹介とかしてないんじゃないですか? 話がかみ合ってないようですし」
「したわよ…集団面接で。彼女は聞いてる余裕もないみたいだったけど……」
これにはミカさんもがっかりしたようで、うなだれている。
申し訳ないなと思いながらも、わたしだって面接の時は大変だったと言いたい。水をかぶって、滑って遅れて行ったんだから、自己紹介なんて聞けなかった。
「ほら、ミカさん自己紹介」
「高井戸ミカです。ピンクラビッツのデザイナーをやっています」