君のいる世界
じわりと熱が体に広がっていく。それはミカさんの期待かもしれないし、あたしの精神が高ぶっているからかもしれない。
前のモデルがランウェイを折り返して帰ってくるのと入れ違いにランウェイに出る。
顔を上げた先は、下からのライティングで真っ白に染まるなか、質感の違いでやっとランウェイが見分けられた。
身が竦むような怖さ。
真っ直ぐ歩いているつもりで狭いランウェイから転げ落ちないのか怖くなる。
怖い、そう思いながら笑顔を作った。そして一歩を踏み出して、また一歩を踏み出す。
アナウンスも音楽も聞こえないくらい緊張しているのに、白く飛んだ視界の向こうから幾千もの視線を感じた。まるで刺さるように全身を見つめられる。
見ているのは、あたしなんかよりもミカさんの服なんだから、少しでも良く見せたい。
ピンクラビッツはかわいいって言われたい。いいよねって言われたい。
そう思ったら自然とポーズも取れた。くるりと折り返してバックステージに戻る。
するとストローの挿してあるパックの飲み物が差し出されて手を出そうとしたら、上着を脱がされながら飲み物をもらうはめになった。
「良かったわ。初めてのステージだとは思えないくらい堂々としてたじゃない。着替えながら髪とメイクも直すから動かないで」
スタッフ3人ががりで全身を変えていく。さやさんの厳しい目でくるりと回され全身チェックして、またステージ袖のミカさんの所へ送りこまれる。