君のいる世界


はじめてステージに立ったあたしが、どうやってこの会場じゅうの人に感謝を伝えたらいいのかわからなかった。

とっさに沢山の言葉を話せるほど頭の回転がいいわけでもなく、すぐに言葉に詰まってしまうあたしに出来る精一杯のお辞儀だった。 

MCのマイクが向けられて、ミカさんはにこりと微笑んだ。


「本日は、私共ピンクラビッツのショウにお越し頂きありがとうございます。

デザイナーが変わって初めてのショウになりますが、ピンクラビッツの象徴ともいえるモデルを得て、これからはさらに可愛くて素敵な洋服を作っていきたいと思います」

拍手と声援にミカさんが手を振ってこたえる。



拍手に背中を押されてバックステージまで戻る間も心臓がばくばくと激しく脈動していた。

ステージやランウェイではなんとか持っていた緊張が切れて、がくがくと足が震えた。

怖かった。

シロウトのあたしが、こんなに大きな会場のこんなに大きなステージで、沢山のお客様に見られる。

きちんとしたレッスンに裏付けられた自信なんてないし、あたしが出来ると選んでくれたミカさんを信じるだけだった。

鳴り止まない拍手で、ショウは成功したとわかる。

よかった。無事に終わって。
誰にも迷惑をかけてないかな。

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