君のいる世界
現在

空港からタクシーで。

どんなに早く走らせてくれても、心のほうが早くて、座っているだけの自分がもどかしい。


信号まちの運転手さんに、「この先の看板がそうだよ」と教えられるなり、「ここで下ろして下さい!」と叫んでいた。

歩道側に座っていたあたしは、ドアが開くよりも早く自分で開けて降りていた。


「青木さん、後でお金払います」

ハザードを出したタクシーから降りると、信号は青に変わっていて道を渡ることが出来た。

走ろうとするのに、ロングワンピースが足に絡んで上手く走れない。

もどかしくても、必死に足を動かす。この一歩が、あの人に繋がっているのがわかっているから。


目指す店から出てきた伊部さんが、あたしの勢いに驚いて道を譲ってくれた。目をめいいっぱい開いた状態で、口もあんぐりと開けている。

「玲奈ちゃん!?」

「伊部さん、ごめんなさいぃ」

立ち止まることもなく走りさると、後ろから青木さんが伊部さんを呼んでいた。

「伊部さんいいところに! 玲奈ちゃんの荷物持って下さい」

トランクに入れたままのキャリーを取り出す音がする。そう意識しても、取りに戻ろうという気持ちにはならなかった。


早く、一刻も早くあいたかった。
< 56 / 181 >

この作品をシェア

pagetop