君のいる世界
現在
空港からタクシーで。
どんなに早く走らせてくれても、心のほうが早くて、座っているだけの自分がもどかしい。
信号まちの運転手さんに、「この先の看板がそうだよ」と教えられるなり、「ここで下ろして下さい!」と叫んでいた。
歩道側に座っていたあたしは、ドアが開くよりも早く自分で開けて降りていた。
「青木さん、後でお金払います」
ハザードを出したタクシーから降りると、信号は青に変わっていて道を渡ることが出来た。
走ろうとするのに、ロングワンピースが足に絡んで上手く走れない。
もどかしくても、必死に足を動かす。この一歩が、あの人に繋がっているのがわかっているから。
目指す店から出てきた伊部さんが、あたしの勢いに驚いて道を譲ってくれた。目をめいいっぱい開いた状態で、口もあんぐりと開けている。
「玲奈ちゃん!?」
「伊部さん、ごめんなさいぃ」
立ち止まることもなく走りさると、後ろから青木さんが伊部さんを呼んでいた。
「伊部さんいいところに! 玲奈ちゃんの荷物持って下さい」
トランクに入れたままのキャリーを取り出す音がする。そう意識しても、取りに戻ろうという気持ちにはならなかった。
早く、一刻も早くあいたかった。