君のいる世界


 お店の前まで来て、決心が鈍らないように一回だけ深呼吸をした。

 もうここまで来て戻ることも、なかったことにも出来ない。ぎゅつと閉じていた瞼を開けると、思い切って引き戸をひき開けた。

 思いの外、軽い力で開いたので勢いが付きすぎてバタンと大きな音がした。

 一瞬で、お店の中の人全ての視線が自分に向けられたのがわかった。

 ……気にしない。すごく気になるけど、平気なふりをするから大丈夫……

 恥ずかしさにぎこちなくなりそうな自分に言い聞かせて、真っ直ぐにカメラマンの一団が陣取る席に向かう。

 憧れのカメラマンである山崎礼治さんも、目をみはってあたしを見ていた。

「明日からお世話になります、柏崎玲奈です」

 勢いよく頭を下げると、髪が地面につきそうになる。勢いよすぎて、おかしかったかもしれない。頭を下げたからだけでなく、顔に血が上ってきた。

 顔をあげると、垂れ目がちな瞳を細めて笑ってくれた。

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