君のいる世界


「山崎礼治です。顔あげて。そんなに畏まられたら、俺も合わせなくちゃでしょ。楽にしてくれない?」

 いっぱいいっぱいなのは、あたしだけで礼治さんは落ち着いてる。どうしよう優しくって大人で格好いい…

 ずっと見ていたいけど、そんなの変に思われる……

「あたし礼治さんのファンなんです。今日も会えるのをすっごく楽しみにしてて、それで急いできて。やっぱり慌ててちゃおかしいんだけど…えーと…うれしくてにやけちゃいます」

 走って乱れた前髪を直しながら、さり気なく伺うと笑顔のままこちらを見ていた。

 憧れてきた人を前にして、いつか会えたなら聞いてみたいことのリストが頭のなかでくるくると勢いよく回っているのに、どれひとつ質問が出てこなかった。

「ゴメンね、礼治さん。玲奈ちゃん場所がわかったら突進していって、俺ら置いてきぼりよ」

 はあふうと息を切らせて、遅れた伊部さんとスタイリストの青木さんがやって来た。

「もータクシーの運転手さん置いて走ってくんだもの。支払いしてきたよ」

「あ、ごめんなさい。お金払います」

 慌ててバックを開けると、ポーチやスプレー、ヘアゴムなどが、ばらっと散らかった。

「やぁっ ごめんなさい」

 かあっと体が熱くなるのがわかった。あわててしゃがんでゴムやポーチをかき集める。

なんでいつも格好悪いんだろう。初めて憧れの人に会えたのに、『ああ、カバンぶちまけてた子だ』なんて覚えられちゃうの?

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