君のいる世界
風の音がする。
生い茂った木々の葉をすり抜けた風が、音をたてる。まだ夜も明け切らない薄闇の中でその音は、ざわざわとした不安が沸き起こる感じに似ている。
目を開けて見えるものが、見慣れた自分の部屋ではなくて、自分の部屋から遥かに離れた沖縄の宿泊先のベットの中ということもあって、どんどん心細くなっていく。
憧れが現実になってしまって、これからどうしたらいいのかわからなくなっていた。
礼治さんはとても素敵な人で、まだ子供なわたしにさえ気を使ってくれる。お酒の席に紛れこんだわたしに、お茶を勧めてくれて、酔っ払いが絡んでくるのもスマートにかわしてくれた。
どうしよう。
思い出しただけで、顔が熱くなってドキドキと心臓が早くなる。
落ち着いて寝ていることもできなくて、ガラス戸を開けてベランダに出てみる。まだ早い時間の空は薄く朱に染まり明るさを増してきていた。
熱くなった頬に風が気持ちいい。
憧れている。尊敬もしている。それだけですまない感情。
礼治さんに、自分を見てもらいたい。そしてもっともっと礼治さんという人のこともを知りたい。
その気持ちがどんなカテゴリーに含まれるのか…
自分の気持ちに向き合うのが怖くなり、そっと目を閉じる。