君のいる世界

 息を吐くと、からっぽになった体に、新しい風が入ってくる。

 それは新しい始まりのように、綺麗な色と香りを与えて、あたしを満たしてくれる。

 ポーチから、おじいちゃんのカメラを出して、手を伸ばした。あたしのカメラはもうずっとこのカメラで、どこへ行くのにも、カバンの隅に入っている。

 カメラを持った手を体に沿わせることなく、自分よりも前に出してしまうのは、本当ならブレてしまうからしてはいけない。

 こんなふうに構えるのは、画家が構図を決める時みたいに見えるだろう。両手の人差し指と親指で、フレームを作るようにカメラを差し出す。この小さなフレームに収まるのは、あたしが見た物で、あたしが心を動かした物だ。

 おじいちゃんから貰ったこのカメラに収められていたのは、小さかった頃のあたしとおねーちゃん、そして娘であるおかーさんが殆どを占めていた。

 もちろん旅先の記念である一枚や、庭の花や鮮やかに咲く頂きものの花もあった。


 でも、何よりも多いのは、私達の写真だった。普段、なかなか会うことの出来ない娘と、孫の。

 会った思い出に、孫の成長記録にこのカメラは使われてきた。小さな私達がメモリーの中から浮かび上がってくるのを見て、チクチクと胸が痛んだ。

 

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