君のいる世界
「そのまま、好きにポーズをとってみて」
とっさに取ったポーズは、ピアスを付ける仕草だった。大好きな写真集をなぞるようなその仕草に、礼治さんの顔が曇っていく。慌てたあたしは、また写真集でのポーズをしていまい、それがさらに現状を悪化させていることで頭が真っ白になってしまった。
「……ごめんね。少し晴れ待ちしようか」
礼治さんはわずかに空が陰ったのを見て、あたしから目を逸らせて、煙草に手をやる。
まだ撮影を始めたばかりなのに、礼治さんのテンションがあがらない。グラビア撮影だけでなく、ファッション関係、アイドル関係であっても撮影されるモデルをリラックスさせて気持ちを上げるのが上手いという礼治さんの評判を聞いていただけに、この対応に不安になってくる
。
とんとんとせわしく叩いて取り出した煙草に火をつけると、吸い込んだ煙りを鯨のように吐き出した。
ちりちりと音をたて大量に吸い込むので、吐き出した煙りの渦に紛れてしまう。