君のいる世界
「礼治さんらしくないですね」
あたし達の間に漂う険悪な雰囲気に、アシスタントの結輝さんが心配して声をかけてくれる。緊張でカチコチになってしまったあたしは、ありがたくその言葉にすがりつくように見ている。
すでに二本目を口にくわえて、手で風を遮り煙草に火をつけた礼治さんがあたし達を見る。
「俺らしい、ってなに結輝」
「いつも冷静で大人じゃないですか。モデルの扱いだって上手くて気分を上げるのなんて簡単にしてましたよ」
「じゃあ今の俺は、なに?」
礼治さんの目は煙草の煙で細められ鋭くなる。
「……礼治さんです」
「俺は俺だよ。らしくなくてもね」
くるりと踵を返して「5分休憩ー」と言いながら歩いて行ってしまった。
拒絶されている。そうわかったけれど、何故かはよくわからず、とにかく謝らなくてはいけないと背中を追いかけた。
自分がバカなせいで皆に迷惑をかけているのが耐えられない。