君のいる世界
海岸線を歩き出した礼治さんは、まだ煙草をくわえたまま海を見つめる。自分でモデルが出来るほど礼治さんは格好いい。少し長めの黒髪はゆるいウェーブがかかって彫りの深い顔を彩っている。さっき見せた憂いを持った顔でさえ、礼治さんの美貌を損なうことはなかった。
むしろモデルのご機嫌を取っているいつもの礼治さんだったら考えられない。アシスタントの結輝さんが驚くくらいには異常事態なんだろう。
透明度の高い海は白い砂が透けて見えるほど明るく澄んで、光をはね返していた。キラキラした世界にいても礼治さんは違和感がない。
こんな時なのに、見とれていたら礼治さんが振り返って手招きしたので、おずおずと近づく。
「礼治さん……」
「どうしてあんなポージングをしたの」
あたしのしたポージングは、鏡でピアスを確認して振り返る仕草だ。遠くをながめて少し目を細めたり……普通のグラビア撮影のイメージではない。
「礼治さんに撮ってもらえるなら、してみたかったんです……」
「どうして」
風で流れる煙があたしに掛からないように体をずらしてくれる。こんなことでも気を使ってくれる。
「あたしが好きな写真だからです」
「Echo?」
「はい。18ページ」