君のいる世界
「よくそんな古い写真集知ってるね」
「10年前です。あたしは8歳でした。」
「その頃から?」
こっくりと頷く。
「両親が行くデパートについて行って、そこで開催していた写真展で写真集を買ってもらいました。
その時からずっと考えてました。どうしたら礼治さんに会えるのか」
憧れていた。ずっと世界で一番会って話してみたい人だった。礼治さんの目で見た世界を知りたかった。
「ただ会うだけじゃ、ダメなんです。そんなんじゃすぐ忘れられちゃう……」
ふいっと視線を逸らせて唇を噛み締める。
「モデルになろうかと牛乳を飲んだのに、身長はあんまり伸びなくって胸ばっかり成長しちゃって…だから礼治さんがグラビアの撮影OKしてくれて、すっごく嬉しかったんです」
同じ職業であるカメラマンになろうと思ったこともある。おじいちゃんのカメラで撮影した写真をカメラの雑誌や新聞社のコンテストに送ったこともあったけれど、どれも賞にはかすりもしなかった。あたしには最新型のカメラを使いこなす自信もなかったし、構図や色補正だとか難しいことばかりでちっとも上達しなかった。
「だから…あの…あたしに到らないことってたくさんあって…不快にさせてしまったのならすみませんでした」
落ち込み、謝意をこめて頭を下げるのを、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「いいんだよ。もう理由もわかったから。もう戻ろう」
顔をあげたら、とてもとても優しい顔をした礼治さんがいた。こぼれそうになっていた涙も引っ込むほどに礼治さんの微笑みは破壊力があった。
きゅうっと胸が締め付けられるくらい格好いい。さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように心臓が走りだす。
先立って歩きだした礼治さんに、少し遅れてついていく頃には撮影のための青空がもどり、あたしの心にも青空が戻っていた。