君のいる世界
あんなに心配していたのが嘘のように、あっさりと手放している。
「俺らはプロフェッショナルにならないといけない訳。彼女は大事な商品だからね、メンタルも大事なんだよ。カメラの前に立てなくなったら困る」
煙りを吐き出して歩いていく礼治さんの背中は何も変わりなどなくて、どんな顔をしているのか見えないのが辛かった。
あんなに玲奈ちゃんのことを心配していたのに、モデルを商品だなんていつもなら言わない。
言わないからこそ、それは自分に言い聞かせているように聞こえる。
「また東京に帰れば日常に紛れてしまうよ」
風に乗って礼治さんのつぶやきが流れてきた。
どんなに憧れていたといっても彼女は若いし、これから売り出しをかける新人だ。
たとえお互いに非がなくてもスキャンダルを求められていたなら、でっち上げることもあるだろう。
先を歩く礼治さんの背中を追いながらも、胸にスッキリしないものが残る。ゆるくのんびりと歩きながら、後ろ髪を引かれる思いで宿泊施設までの道を辿った。