雪のような恋。
特に話すこともなく、白井と階段を下りて下駄箱に向かった。
靴を履き替えて外へ出ると、赤いマフラーで口元を覆っている
メガネの女子が壁にもたれかかっていた。
その子は美雪を虐めていた一人だった。
今日の先生の話で泣いた明石鈴という女の子だった。
明石は何か言おうともぞもぞしていたが
俺たちは、黙って通り過ぎた。
「待って」
明石の声に俺たちは足を止めて、振り向いた。
「なんだよ」
返事をしたのは白井だった。
白井の声は聞いたことのない尖った声だった。
「あの、私のせいで…。空野さんが…」
「お前らのせいで空野が来なくなったんだろ!」
「うん…。だから…」
明石は、白井ではなく俺の方をじっと見て
頭を下げた。
「ごめんなさい」
許せるはずはなかった。
でも、俺を見た明石の目に涙が溜まっていた。
俺はこれ以上、明石を責めることはできないと思った。
しかし、白井は俺とは違った。
明石のマフラーを引っ張り、無理やり顔をあげさせた。
赤いマフラーは地面に落ちた。
驚いた顔をしている明石に白井は大声をあげた。
「ほんとに悪いと思ってんなら、まず空野に謝ってこい!」
そして地面の上の赤いマフラーを踏みつけて、明石に蹴りつけて
吐き捨てるように言った。
「それでお前も2度と学校来んなよ」
明石は目を泳がせて、何か言おうと口を開けたが、閉じてしまった。
美雪のために怒ることができる白井が羨ましかった。
そして、白井が美雪のことを好きだったと忘れていた。
でも、ここで明石を責めたって意味のないことだった。
「もういいよ」
それは、明石たちを許す言葉ではなかったが
明石が俺を見る顔は少し、微笑んでいた。
白井は自分を落ち着かせるように溜息を吐き、
もう一度、明石に背を向けて歩き始めた。