次も、優しく丁寧に。

「……ねえ」
「ん?あー、そこ、そこでいい」
「下手なのは私くらいだよね?」
「おい待て、それじゃおかしくなるから。うまく出せない。ちゃんと確認しろ」
「他のみんなは上手なんでしょ?」
「……よしよし、そう、それでいい。今日は上手いじゃねぇか」
「ちょっと聞いてる?」
「聞いてるっつーの、少しは待て。…‥よし、いいぞ」
「あなたがあんまり我儘言ってると他の子連れてくるって、さっき総務の人が言ってて」

 ぴたりと彼の手が止まり、私を凝視する。
 本当は少し前から気付いていた。
 シャツもスーツもくたびれてきているし、いくら他の子に愛想をよくしていても気まぐれで我儘なところは隠しきれていない。
 だから新しい子に来てもらうかどうか、年末の繁忙期が過ぎたら相談してみようかという話をエレベーターで偶然聞いてしまったのだ。

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