ハードな彼と溺れる恋を 【ぎじプリ】
「梨穂。いつまで他人行儀なフリするつもりだ。ほら、いつもみたいに早くポートを出せよ」
「………嫌です、私はUSBの差し込み口なんて持ってません」
ユウさんは、くすりと余裕の表情で笑ってくる。
「だったら思い出させてやるよ。おまえのどこに俺と繋がるための入り口がついているのか」
一番最初に彼に教えられたときのように、私は強引に唇を奪われる。多機能型メモリのユウさん曰く、人は身体じゅうに≪接続≫するためのUSBポートを持っているらしい。中でも彼がお気に入りなのがこの唇だった。
「これは勝手に人様の記憶を改竄して男心を弄んだおしおきだ」
そういって強引に≪接続≫してきた彼は、私の口内をこじ開けてくる。
もう二度と味わうことがないと思っていた、やわらかくてピンク色で、彼の温度にあたたまった、人の舌にしか見えないコネクターが伸びてきた。そして同じ温度の私の舌をまさぐる。いとおしそうに吸ってくる。
こんなの、ただの端子でしかないのに。こんな気持ちになっちゃいけないのに。
彼の凸の端子と、凹の形の私の唇が噛み合っただけで、それ以上の意味はないはずなのに。
「……っ」
抵抗しようとして、やめた。
どうせどんなに隠そうとしたって、≪接続中≫の私の中からいくらでもデータを抜き取って心を全部丸裸に出来る彼には、今私がうっとりしてしまってることは分かってしまっているのだから。
この三年、どんな気持ちで彼と≪接続≫していたのかも、全部透けて見えてしまっているのだから。
「俺から逃げられなくて残念だったな、梨穂?……でもそんな潤んだ目をして俺のこと見るなんて、おまえはもうとっくに手遅れだよ」
そう嬉しそうにいって、ユウさんはますます深く私に≪接続≫してくる。
とうに人としての道を踏み外していたんだと悟った私は、ユウさんからの≪接続≫に応えるために自分から彼の頭を抱いて引き寄せた。
そして行きつく先の見えない彼との恋に溺れるために、自分の身体を性悪な彼に投げ出した。
(おしまい)
彼は“USBメモリー”