保証書付きのシンデレラ
「雛、今夜で舞踏会は終わりだ」
そう言うと、彼が緩やかに足を止めた。
「えっ、どうして」
「雛の本当の王子様がやってきたからだよ」
『雛形先輩。よかった、まだいてくれて』
その言葉で我に返った私の黒いパンプスが片方だけ脱げた。まるでシンデレラのガラスの靴のように。
振り返るとそこには城田くんがいた。
舞踏会の幕が下りて、現実的すぎるオフィスへと急激に引き戻される。
私はキャスター付きのオフィスチェアに座り、室内をくるくると回るように踊っていたのだ。
「城田くん、帰ったんじゃ……」
「これ、差し入れです。前に雛形先輩、ここのチョコが好きだって言ってたから」
城田くんの手には高級チョコレートブランドのシックな袋。
「僕、コーヒー入れてくるんで、一緒にチョコ、食べませんか」
「一緒に食べてくれるの」
「はい、そのつもりで買ってきました。って、その前に」
城田くんは私の前に片膝をついて座ると、ひとりぼっちにさせてしまった黒いパンプスを履かせてくれた。
「僕の……僕だけのシンデレラになってください!」
「っ、えっ、あっ、はい。よろしくお願いします」
「やったー!」
城田くんのガッツポーズが可愛くて、舞踏会を失い寂しくなっていた私の気持ちが微笑んだ。
「雛形先輩、明日は残業やめましょうね。誕生日お祝いしたいから」
「私の誕生日、知ってたの」
「勿論です。僕のシンデレラですから。じゃコーヒー入れてきます」
「ありがとう」
チェアから立ち上がり、給湯室へ向かう城田くんを見送った私はその背もたれを撫でた。
「城田なら大丈夫。俺も城田の事、ここからずっと見てきたんだから。必要なら保証書も書いてやる。保証期間は一生な」
と、言ってくれているような気がしたから。
【保証書付きのシンデレラ*END】
擬人化【オフィスチェア】