ホットな恋
「あんたね‼ 間久のくせに……」


……どうしよう、怒らせてしまった。声を荒げている先輩に、やってしまったと少し後悔しながら、対処に困りとりあえず先輩を眺めていた。すると、怒りに顔を赤くしていた先輩が私の方を見ながら急に言葉を止めて、驚いた様な顔で固まってしまった。


「……神谷先輩?」


急にどうしたんだろうと、首をかしげながら先輩を呼んだ。すると背後から温かいものに包まれた。





「神谷さん、それくらいにしてくれませんか? 俺には雫がいますし、雫には俺がいますから」

私を抱きしめながら羅一(らいち)君ははっきりと先輩に告げてくれた。背中越しに伝わる彼の温もりと彼の言葉に安心して、力んでいた全身からすっと力が抜けていった。


「今まで黙っていましたけど、俺たち結婚することになりました。たった今、部長には正式に報告してきました。来週には雫とふたり揃って、みなさんに報告するつもりです」


淡々と羅一君は言葉を紡いでいった。


「先輩、今まで黙っていてごめんなさい。そういうことなので、彼の事は絶対に譲りませんから」


彼が一緒にいてくれるからか、今度ははっきりと伝えることが出来た。


「……結婚する男なんかに私も興味ないから。いつもおどおどしてばかりで、はいはい言うことを聞いてしまう間久さんを困らせてやりたかっただけだけど……好きな男に関してはそんなにはっきりとしゃべれるんじゃない」


いつも私に向けてくる意地悪な表情とは全く違う、初めて見る優しく笑う先輩に困惑してしまった。こんなに優しく笑う先輩を私は知らない。


「なんでこのタイミングで困ってるのよ。あんたたちをこれ以上みてると、砂糖でも吐きそうだから私はもう行くよ。……ごめんね、間久さん」


あっけにとられている間に、謝罪の言葉を残して先輩はひとりでさっさと行ってしまった。


「なあ、神谷さんは結局なにがしたかったんだ?」


去っていく神谷さんの背中をみながら、羅一君も困ったように笑いながら私に問いかけた。


「私にも分からない。私を困らせたかった……だけ?」


予測できなかった結末に拍子抜けしたけど、大事にならなくて安心した。
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