切ない大人の恋
1、出会いの始まり
本当の運命の出会いなんて信じてなかった。

どんなに辛い人生だって嫌なことだって乗り越えてきたし、自分一人で何とかやっていこうとも思ってた。


でも…どこかで期待してた。私の運命の人。


「綺羅さーん」

考え事をしていると、どこからか私を呼ぶ声がした。


声の主は先輩の吉川 典子。仕事もキビキビしていて40歳って聞いたけど、ずっと若く見える。

「このコピーと、この書類をまとめてもらうのと、事務所のファックスに届いてる用紙をもってきて!」


私も、そこそこ仕事は頑張ってるけど まだまだ…。


コピーをしていると、他の先輩からも声をかけられた。

「あ、綺羅さん。このお客様用の案内用紙も印刷しておいて!」


「美穂子先輩、これ終わってからでも良いですか?」


「あー、後で大丈夫。よろしくね!」


美穂子先輩は50代って聞いたけど、見た感じは30代にしか見えない。


私は 海原 綺羅。

職場は老舗の大手企業と呼ばれる場所。

たまたまベテラン先輩が辞めた関係で雇われることになった。

入社して一年が経った今、何とか使い物になっている。


忘年会ではミシュランの何個星が付いてるのか知らないけれど高級な料亭に連れていってもらったり…。食べたことも無いような激ウマな料理を食べられる。


セレブのおこぼれみたいな感じ。


こんなにも満足なのに心が満たされてないのは本気で好きな人がいるのに、大人になるほどに素直になれないジレンマのせい。

大好きなのに、好きで好きで堪らないのに…。


本人を目の前にすると目を背けてしまったり、緊張して普段の降るまいが出来なくなってたり。


もっと話したいし、彼女になれたら…どんなに幸せかなって思う。


幸せすぎて泣いてしまうかもって思う。


なのにガチゴチになって上手くいかないの。


どうして…どうして上手く言えないんだろう。


こんなにも恋い焦がれてるのに。こんなにも大好きでたまらないのに。


もう我慢なんて出来ないはずなのに。


大量の仕事を終えて職場を後にするとき、常連の若い男性のお客様が見えた。


「いつも、ありがとうございます」


綺羅は会釈しながら声をかけて通りすぎようとしたとき…ふと腕を捕まれて男性客と至近距離になっていた。


「あ…あの、お客さま…」

綺羅の声がかすんでいく。


男性客は、しどろもどろになって話し出した。

「ずっと…ずっと…あなたが好きで好きで…。もう堪らなく俺のモノにしたかった。こんなやり方しか出来なくてゴメン。けど、本当に本当に大切にするから……俺と…付き合って。」







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