記憶の欠片
第一章『記憶の雨』
薄暗い雲が空を覆う。一切の光を許さぬその光景は、とても不吉でで、全てを閉ざさせる。

淀んだ何かを洗い流すかの様に降り続く雨。その一滴一滴が視界を遮り、不快にさせる。

「・・・学園」

遮られた視界に、微かに映る文字をゆっくりと読み上げる。

中世ヨーロッパの宮殿を思わせる様な豪華な門に、門とは正反対に和風な石造りの銘版。

そんな門の前に神代ジュウは立っている。幾重にも重なり流れ落ちる雨雫が、金色に染まる髪を伝い身体中を流れ落ちる。

その光景は、代わる代わる通り過ぎる通行人には、どれ程異様に思えただろう。

そんな疑心に満ちた視線を気にも止めず、ジュウは歩き出す。一歩、また一歩と。

そして、ジュウは門の前に来ると足を止めた。そして、重々しく顔を上げた表情がこわばり始める。

降りしきる雨の中、異様に開かれた2階の窓ガラス。そしてそこに立つ一つの影。
今まさに、これから起こりうる出来事を誰しもが想像できるであろう。
淀んだ視界に映る一つの影。その影がジュウの記憶と共に鮮明になる。

「・・・み・つな」

吐息の如く発せられた言葉は、降りしきる雨音に消えてゆき、それど同時にジュウは走り出していた。滴る雨で滑りやすくなっている門を強引に駆け上がり、滑る地面に足をとられながらも、がむしゃらに走り続ける。


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