記憶の欠片
そして、一つの影は、予想を裏切ることなく宙に飛び上がり、重力に逆らうことなく落下する。

「っクソ!」

吐き捨てた言葉と同時に、ジュウは渾身の力を込めて飛んだ。

強く伸ばした手に、確かな感触を掴みとり、掴んだ者を覆うように抱き寄せる。そして、ジュウの体は受け身を取ることなく、勢いのまま固く冷たい壁に叩きつけられる。身体中に痛みが走り、衝撃からめまいを誘発する。

膝が崩れ落ちそうになるのを、唇を噛みしめ踏ん張る。痛みやめまい、今のジュウにそんなものに気力を費やす余裕はなかった。

「みつなっ!みつなっ!」

抱き抱えた腕のなかで目を閉じる少女。その少女にジュウは必死に呼び掛ける。

「おいっ!みつなっ!みつなっ!」

雨粒が、ジュウを伝い、少女に流れ落ちる。

そして、少女の瞳がゆっくりと開いてゆく。

「・・・な・・んで」

微かに動いた少女の唇から発せられた言葉は、余韻も残さず雨音となった。

そんな、弱々しく不確かな声は、ジュウの脳裏を駆け巡り、少女を抱き抱える手に、自然と力が入る。

それと同時に、少女が小さな悲鳴をあげる。


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