笑顔のかみさま【ぎじプリ】
「……ごめん。吉田さんにそういうクセがあるのは知ってたんだけど」
それでも、いてもらいたい。どれだけ、ボロボロになったとしても。
「キミのおかげでいろんなお客様に気に入ってもらえたから……今となってはお守りみたいなものなの」
「なにそれ。勝手にかみさまみたいに崇めんなよ。俺なんてただの……」
言いかけて口をつぐむ。伏せた瞳が、少しだけ切なげに見えた。
「……今のアンタなら大丈夫だよ。俺がいなくたって」
声が、わずかに震えている。いつもの彼じゃないみたいだ。
「大丈夫って言われても……いなくなると絶対不安になる」
条件反射でお客様の前では笑顔になれるだろうけど、そのうちまた忙しさから忘れてしまいそう。
「あ、お客様だ……!」
彼を見て、キュッと口角をあげる。
笑顔ヨーシ!
わたしの顔を見た彼は、自分の黄色い頭をワシャワシャと掻いた。
「あーあ、損な役割だ」
彼がぼやいているのを聞きながら、わたしは接客をこなした。
三時で窓口が閉まり、一日の締めをしているとパソコンを見ていた貸付の係長が声をあげた。
「異動が出たぞー」
今日は異動が出る日だった。係長の言葉に、みんなが耳をそばだてる。
「支店からは横川と中井代理の名前があるな」
「え!? わ……わたし?」
わたしは思わず立ち上がっていた。
入社してからずっとこの支店だった。いつ異動になってもおかしくないと思っていたけど、いざ転勤の辞令が出ると動揺してしまう。
「へー、アンタ異動するんだ。いよいよ、俺とお別れだな」
いつも通り、端末画面にボロボロの身体を預けた彼がチラリとわたしを見る。反応を窺うような上目遣いが、なぜだか胸に痛い。
「ちょ、ちょっと確かめてくる」
ローカウンターに置いてあるパソコンの前に行き、異動の情報を見ると、確かにわたしの名前があった。今度は、本店に異動だ。
忙しさはきっとこの支店の十倍以上。ますます、笑顔が必要になる場所……。なのに、彼とはお別れになる。