そんな彼に今日も溺れて
席について次の仕事を待っている私の横では、彼が私の横顔を楽しそうに見つめているのが分かった。
「どうしたの?」
「いや、ね。キミの横顔を独り占めできるのが嬉しくってさ」
「……っ! ちょっと、仕事中に何言ってるの」
「仕事中でも、さ。みんなは自分のことで忙しいからどうせこちらの会話なんか聞こえてないさ」
「それでも」
私は思わずうつむく。
彼は外国育ちらしく、思ったことは素直に言う。
繕うこともせず、ただ正直に生きる。
それが羨ましくもあるんだけどね。
「なに?」
「なんでも。ねえ、そういえば仕事こないんだけど」
私は電話を指さして首を傾げる。
「ああ。今日は来ないようにシャットアウトした」
「え」
私は瞠目する。
「だって、たまにはサボりたいじゃん?」
「だ、ダメだよ! 働かなきゃ」
「もう。真面目だなあ、恵美は」
そういうと彼は私の腕を引っ張って席を立たせた。
「部長。トイレ」
「おう」
おう! じゃないよ!
そう、心では叫ぶけれど彼につかまれた腕が熱くて何も言えなくなってしまった。