そんな彼に今日も溺れて


「トイレじゃないんだ」
「ムードないじゃん?」

 誰もいない休憩室。
 というより、こんな時間にここにいることがバレルと、いろいろよくない。
 よくないけれど――。

「ここにいれば、問題ないし」

 そう言って休憩室の戸を後ろ手で閉めれば、ドアのガラス窓の部分にカーテンをかぶせた。
 まだ陽が昇る途中の、暖かな日差しが室内の温度を上げる。

「あ、暑いね」

 私はそっと彼との距離を置こうとしたら途端に「ダメ」と言って近づかれてしまった。

「ちょ、ちょっと……」

 壁にゆっくりと追いやられていく。
 汗がすっと胸元を流れる。

「……なに?」
「なに、って。ち、近いよ」
「仕事中、もっと密着するのに?」

 意識しすぎじゃないの?
 そう妖しく微笑む彼の目に映る私は、彼のことを愛おしそうに見つめていた。
< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop