真夜中のお届け物【ぎじプリ】
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ひと気のない深夜のオフィスに入ると、足音を聞きつけたのか、君が小走りで駆け寄ってきた。
「お待たせ」
オフィスのカウンターに肘をつきにっこりと僕が笑ってみせると、君の眉間にシワが寄る。
「なにがお待たせよ。本当にのん気なんだから。あと十分遅かったら帰ってやろうかと思ってたんだからね」
これでもかってくらい険しい顔でそんな可愛くないことを言う。
僕の到着を待ちきれなくて、ずっとそわそわしていたくせに。
いつもは十人近い社員が働き賑やかなはずこの事務所も、夜も更けた今の時間はひっそりと静まり返っていた。
まるで外の華やかさが嘘のような寒々しさだ。
節電のせいで薄暗いフロアに、君のデスクの上だけぽつんとついた蛍光灯がよけいに寂しく見える。
「僕に会いたくて、ずっと待っててくれたくせに」
「勘違いしないでよ。あんたに会いたかったわけじゃなくて、仕事だからしかたなく……」
「わかってる。待っててくれてありがとう」
顔を真赤にして怒り出す君に、僕は笑いながらお礼を言う。
こんな時間まで、僕を待っていてくれてありがとう。
ひとりきりのオフィスで、心細かっただろう?
優しくそう囁くと、君のふくれっ面がゆっくりと緩んだ。
僕の肩にうっすらと積もった雪の結晶に気づき、そっと指で触れる。
「……雪、降ってたんだ」
「うん、さっき降りだしたところ」
「こんな日にバイクでなんて、寒かったでしょ?」
小さな雪の結晶は君の体温に儚く溶けて、あっという間に形を失い君の細い指先を濡らす。
「君が待ってると思って、急いで来たんだ」
「もう。次はメールで済ませてよね。そうしたら私もこんな時間まで残業しなくて済んだのに」
「ごめん。でも、たまには直接やり取りするのもいいでしょ?」
甘えるように笑って見せれば、優しい君はため息をつきながらも許してくれるんだ。
「今回だけだからね」
「うん。こんなワガママを聞いてくれるのは、君だけだから」
僕はそう言って一度息を吸い、君のことを見上げて首をかしげる。
「だから、早く脱がせて、僕を見て?」
その言葉に君は大きく深呼吸をしてから、僕が着ていた白いコートに手をかけた。