緑の家
電話の向こうの父は、緑の家は手放さないとならないと言った。父の家から簡単に行き来できる距離ではない。ほうっておくとお化け屋敷みたいになるかもしれない。


それでもダニエルの意思は固かった。

─────


敷地内にエンジン音が近づき、ダニエルは我に返った。来客はノックで住人に合図した。


「このリズムはパパのだ」


そう気づいたのはアーサーで、玄関に飛び出したのはオーギーだった。仕上がったばかりのテーブルとイスにヤスリをかけている最中であった。


思わず「おかえりなさい」と言いそうになる。そうだこの人はママではない。


待ちくたびれた留守番体験の刷り込みが、皮肉にも母の記憶の一番強いものになっていた。


オーギーは、ほとんど初対面の父を招き入れる。
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