緑の家
オーギーが物心ついた時分に父の姿はなく、けれど子供達の誕生日には必ずカードを贈る父の影があった。父と過ごした記憶のないオーギーは、面影に触れながら父の存在を把握していた。


母は作家で、でもそれだけでは食べていけないので、週二回の休日以外はフルタイムで働きに出ていた。帰宅して子供達の世話と家事にいそしみ、子供達が寝静まった夜と休日をパソコンの前で過ごした。


「ママはいつ寝てるの?」


幼いオーギーの口癖に、母は優しく笑った。


忙しい母よりもだいぶ早い学校からの帰り。末っ子のオーギーが必然的にアパートの鍵を回す役目になっている。オーギーにとって最もワクワクする時間の幕開けである。


靴を脱いだオーギーは、カバンを放り投げてダイニングテーブルに走った。
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