緑の家
母の葬儀を終えた。じきに父が迎えにくる。子供達の親権が父親に渡ったのだ。


「パパのところへは行ってもいいけど、緑の家は手放したくないわ」


ダニエルは手を動かしながらつぶやいた。母が入院してからというもの、板についた料理姿は元気な頃の母に似ていた。


壁紙はもちろん、ドアノブも床も窓ガラスまでも全てが家族のお気に入りだ。最後に磨き上げたのが借退院中の母の手による。


子供達の心の時計は止まっている。けれど積もる埃は時を知らせる。


この大きな宝物をなんとかして守れないものかと、ダニエルは思案に暮れていた。父親もダニエルの説得に頭を悩ませていた。
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