夜の職場の君のミス
夜の職場の君のミス
仕事が終わり他の社員が帰宅する中、私一人だけが未だ帰らず資料室のドアを押し開けた。
苛立ちから頬を膨らませながら。
「あー、もう!聞いてよ!イチ君!」
「あ?また、金木かよ」
ドアが開いた瞬間に、目に入った彼が呆れた顔を私に向けてくる。
この資料室に居座る彼に会うのは久しぶりでもなんでもない。好んでではないが、結構な頻度で私はここに出向いているのだ。
「お前、最近じゃ一番ここに来てるぞ」
「まじっすか!?」
「大まじ」
まさかの一番頂きました。
こんな一番、……全然いらないし。
「私が一体何したってんだ!全く!」
「いや、何かしたからサービス残業言い渡されてんだろうが」
「そ、……そだけども」
苛立ちに的確な突っ込み。
流石、私よりもずっとこの会社の事を彼は分かってる。
「で、今度は何したの?」
今さっきの突っ込みよりも、優しい声音でそう訊いてくれる彼は、少しなりとも私が落ち込んでいる事に気付いているんだろう。
そんな彼の横を通り過ぎると、部屋の隅に置かれているデスクに向かい、そこから椅子を引き腰を下ろす。
デスクの上に頬杖をつき吐く、盛大なため息。
そのため息に対して、ふっという彼の小さな笑い声が耳を通り過ぎた。
「今日はさ、何となく朝から気分が良かったわけよ。今日も一日仕事するぞ!って意気込んでたからね」
「ふーん」
目線は彼へ向けていないのに、私の言葉に対する相槌。この適当そうな何とも言えない相槌がまた、私を饒舌にさせる。
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