ひとみ
「ところで駿平君、いくつになったの?」
彼女はタバコに火を点けながらボクに訊いた。
「20歳です」
ボソッと答えたボクの言葉に、楠木さんは笑顔を見せた。
「あらぁ、それじゃあ、お酒も問題ないわよね?たくさん買ってきたからいっぱい飲んじゃいましょ!」
そう言い終わる前に、彼女は既に缶ビールのプルダブを開けていた。
「あ、いや、楠木さん、ボク、お酒飲んだことないですから、結構です」
ボクの言葉に彼女は鋭い視線を投げかけた。
整った顔立ちで、ネコのように大きな瞳であるぶん、その視線はより凄みを増して感じる。
「飲んだことがないから飲まないって?それ、理由になってない。飲んだことがなければ、飲んでみればいいじゃない」
はい、ごもっともなお答えです、はい。
「それに、『楠木さん』なんて、他人行儀な呼び方はやめて。ひとみでいいわよ」
彼女の圧倒的勢いにボクは完全に言いなりになった。
蛇に睨まれた蛙ってこういう状況なんだろう、きっと。
有無をいわさぬ圧力で、ボクはひとみさんから差し出された缶ビールを受け取った。
「それでは、私の新生活と、駿平君の誕生日に、乾杯!」
彼女はそう言って、グビグビと缶ビールを一気に飲み干した。