ひとみ
翌朝、ボクはひとみさんと父に気付かれないようにそっと家を出た。
冬の寒い風が、あたりを吹き抜け、思わず身震いしてしう。
空は澄んできて、その青さは少しだけボクの心を和ましてくれた。
護岸整備された川べりに腰を下ろす。
川からはうっすらと霞が上る。
冷え切った空気は、水温よりも冷たくなっているようだ。
朝日を浴びた水面は霞の中でキラキラと美しく反射している。
ボクはただひたすら流れゆく川のせせらぎを眺めていた。
川の流れはゆっくりと幾筋に渡り、そしてぶつかり合い、小さな渦を作り、またひとつにまとまり流れてゆく。
人の人生と同じだ。
偶然に出会った人間同士が、それぞれの人間に影響されあい、新しい人生を歩んでいく。
ひとりではなにも変わらないかもしれない人生。
それが、他の人の人生と交差することによって少しずつ変わっていく。
人間の歩みはその積み重ねなんだろうか。
重なり合った偶然により出会った人同士は、互いに影響しあい、そして影響されあい、進む方向が出来上がっていく。
偶然が作りあげる、人生の道しるべか。
もはや、その偶然は必然へと変わっていく。
この川の流れだって、常に同じではないんだ。
多少の加減の違いで、様々な姿に変化していく。
きっと、人間の人生だって、出会った人との関わりで、未来は変わる。