ひとみ
「大切な話?」
『あぁ、大切な話だ。まずだな、家のことなんだが、その家、お前にくれてやる。まぁ、一応、お前が大学を卒業したらって条件は付けるがな。そしたら、その家はお前のものだ。住み続けるも、売り払うも、お前の好きにしていいぞ』
突然、父に言われた言葉に軽く混乱してしまう。
「えっ?それって、もしかして、父さん、日本にもう帰らないつもりなの?」
『あのなぁ、駿平、俺はあくまでも日本人だから、いつかは日本に落ち着きたいと思ってるさ。ただ、それがいつになるかわからんし、それならお前に譲った方が色々役立つだろうと思ってな。まぁ、俺がたまに日本に戻った時くらいは泊めてやってくれ』
携帯越しの父の声は笑っているようだった。
『あとな、もうひとつ』
そう言って、父は再び言葉を切った。
『お前に頼み事があるんだ、駿平。ええとなぁ、そうだなぁ』
そう言ったあとの言葉が続いてこない。
父はなにか言葉を探しているようだった。
『あのなぁ、駿平。ひとつお前に預けておきたいものがあるんだ』
「預けておきたいもの?」
『あぁ、そうだ、預かってほしいんだ、お前に』
「えっ?なにを?家のことじゃなくて?」
ボクは父に尋ねた。
『ん?あぁ、まぁ、それはいずれそっちに届くから、その時まで楽しみにしといてくれ。まぁ、俺じゃ、ちょっとばかし手に余してしまうんでな。お前なら上手く出来るだろうと思ってな』
父の言っていることはさっぱりわからなかった。
「ええと、父さん、だからなんなのそれ?」
『あ、あぁ………おっと、もう飛行機の時間だ。じゃあな駿平。よろしく頼んだぞ。向こうに着いたらまた連絡するから』
なにかをごまかすように、父はフライト時刻を理由に電話を切った。
なんなんだ?
いったい、預けたいものって。
そんなことを考えていたらふと寒気を感じてしまった。
あぁそうだ、風呂に入るんだった。
ボクは冷えた体をさすりながら、風呂の準備をしに再び浴室へ向かった。