ひとみ
「あら?駿平君、乾杯したんだからさっさと飲まなきゃ」
そう言ってひとみさんはボクにプレッシャーをかけた。
仕方なく、ビールをひとくち含んでみる。
口の中にえもいわれぬ苦味が広がっていく。
吐き出すわけにもいかないので、無理矢理溜飲した。
胸の中を初めての感覚が通り過ぎていく。
「どう?初めてのビールは、美味しい?」
彼女はイキイキとした瞳でボクを見ている。
「に、苦くて、マズい………」
ボクは正直な感想を口にした。
その刹那、ボクは頭に衝撃を感じた。
ひとみさんの右の手のひらがボクの頭に振り下ろされていた。
「あぁ?私のビールがマズいですって?よぉし、今日は駿平君がビールを美味しく飲めるようになるまで、トコトン飲ますわよ!」
あなたは…………その筋の方ですか?
なんで、ボクがこんな目に遭わなければいけないんだよぉ…………
そう思ったのも束の間、彼女は強制的にボクの口を開かせ、たんまりとビールを流し込みやがった。
ボクは苦しくなって、思わず口の中のビールを吹き出してしまった。
スローモーションを見ているみたいに、空中にビールの飛沫が飛び散っている。
いったい、なにやってるんだよ、ボクは。
部屋の中でゲラゲラ笑い声が響く。
ひとみさんの声だ。
「駿平君、ごめんごめん、もう、そんな悪ふざけはしないから、ゆっくり飲みましょう」
さして、悪そうに思ってなさそうに彼女はサラリと言った。