ひとみ
ボクは、ボクを見つめる彼女の瞳に一瞬ドキリとしてしまった。
「ねぇ、早く行きましょうよ、デート」
そう言って、ひとみさんはボクの腕に手を絡めてきた。
彼女の柔らかい胸がボクの肘にあたっている。
一瞬、目眩がしそうになる。
ボクは頭をプルプル振って正気にかえった。
「デ、デートって、なんですか?ただ、夕飯の買い出しに行くだけでしょ?手、離してくださいよ!」
そんなボクの言葉を彼女はおかしそうに聞いている。
多分、ボクをからかっているだけなんだろう。
「なぁ~んだ、駿平君ておもしろくない人ね。せっかく、勝負パンツまで履いてバッチリとキメてきたのに」
ひとみさんはケラケラと笑いながら言った。
「勝負って………いったいなんの勝負する気なんですかっ!さぁ、さっさと買い物行きましょう!」
ボクの言葉、それに行動を彼女はニヤニヤしながら見ていた。
絶対、からかっているだけだ。
ボクたちはスーパーに向かって歩みを進めた。
春先の淡い光は気分を長閑にさせてくれる気がする。
通りの桜並木は緑色の葉桜となり、春の生命観を感じさせてくれる。
「それにしても………」
ボクはボソッと口を開いた。
ひとみさんはボクの言葉に視線を向ける。
「それにしても、ひとみさんが時間通りに来たの、意外でした」
ボクは彼女の姿を見た時に感じた感想を口に出した。
「失礼ね、駿平君」
口調とは違い、彼女の顔は笑っていた。
「私ね、時間には正確なのよ。人を待たせるのが嫌いでね。そう、これ、駿平君のお父さんのせいよ」
ひとみさんは、ふと空を見上げ、懐かしそうな表情を浮かべた。