ひとみ
断る理由を見つけることが出来なかったので、ひとみさんの同行を許可してしまったが、やっぱりイヤだ。
なんだよ、その格好は。
相変わらず、彼女ご自慢の美脚を見せつけるようなミニスカートに、体の線を強調したタイトなTシャツって。
なんで図書館行くのにその格好なんですか?
ったく。
夏の強い日差しの中をボクたちは並んで図書館に向かった。
「ねぇ、駿平君、なに読むの?」
ボクは今話題になっている直木賞作家の名前と作品名をあげた。
「ふ~ん、私はなに読もうかなぁ」
そう呟いた彼女に、ちょいと皮肉混じりにボクは言ってやった。
「漫画や雑誌はおいてませんよ」
さすがに頭にきたのだろうか、彼女はまん丸な瞳を鋭くして鋭くボクを睨んだ。
「失礼ね。私、これでも文学少女なのよ!」
ボクは笑いながら言い返した。
「少女って歳じゃないでしょ?だったら、なんの本読んでたの?文学少女さん?」
ボクの言葉にひとみさんの目は一瞬泳いでいた。
「え、えぇと、『源氏物語』とか読んだわよ。『祇園精舎の鐘の音 春は曙いとをかし 岩に染み入る兵の 盛者必衰の理をあらわす』ってね」
ボクは思わず目が点になってしまった。
「あの、ひとみさん?それ、全然『源氏物語』じゃないし、『平家物語』と『枕草子』と滅茶苦茶になった芭蕉の句を継ぎ接ぎしただけじゃないですか?だいたい、『岩に染み入る兵』ってなんですか?」
ボクの言葉にひとみさんは恥ずかしさからだろうか、そっぽを向いてしまった。